| メ イ ン ペ ー ジ |
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なぜそんなことをするのか、誰が訪ねても答えてくれないので、ナースたちはこう考えました。工事の音へのイライラに加え、神田さんの自宅療養に対し消極的な家族への不満がストレスになり、それが形のなったのではないか。 Gさんの捉え方は少し違いました。工事の音へのイライラだけでも、家族が退院後の受け入れをしぶっていることへのストレスだけでもない。いちばんのきっかけは自分にある。自分自身の言動、あるいは態度に失礼があり、それが神田さんの機嫌をそこねてしまったのだ。 このところ、Gさんは自信がなくなることばかりでした。工事音でイライラするのか、患者さんたちからは、いつもの何倍ものクレームが寄せられ、ナースたちからは勤務表作成の件でクレームがあり、頼りのベテランナースが突然辞めると言い出し、今年の診療報酬の改定で看護師配置が見直されたこと(そのこと自体は福音なのだが)で、新しく採用する看護師をなんとしても見つけよと指示が出ているのにまったく見つからず、入院費不払いの患者さんの問題で管理責任が問われたり、などなど。そこへある患者さんから「Gさんの笑顔は、なんとなく無理してる感じで」と言われてしまい、こと笑顔については自信があった彼女は、相当に落ちこんでいたのです。そんな時期に神田さんのガンガンがはじまったわけです。 神田さんのガンガンがはじまって三日目の今日の午後、ちょうど神田さんがガンガンとやっているところへ、Gさんは彼の病室を訪ねました。彼女には外の工事と神田さんのガンガンが自分に対する非難の合唱のように聞こえます。 Gさんはベッドサイドの椅子にかけ、ガンガンの手を止めた神田さんに、しずかに切り出します。 「率直にお尋ねします。神田さんがご機嫌を損ねたのは、至らない看護師長代行である私に原因があるように思います。神田さんがコーヒーのビンでそうされるようになったのは私がここにおじゃましたときからですから。そうですよね」 Gさんは、不覚にも患者の神田さんの前でうっすらと涙ぐんでしまいました。それを見て神田さんは、驚いたように目を丸くし、しばらくGさんの顔を見つめたあと、ぼそぼそと話し出したのです。 「わたし、どうかしていました。ちょっと大人気なかったな。昔、病院やビルの建設現場にいたことがある人間だから、工事の音が耳障りでないばかりか、なつかしくも感じる。Gさんが、あの音を好きな人などいないと言ったから、現場でがんばっている人間がケチをつけられた気がしてカチンときてね、なんとなくガンガンやりはじめたら、気分がすかっとするんで止められなくなってね。Gさんは何も悪くないですよ。私は、自分では気づかないがストレスがたまっているんでしょうな」 その日の夕方、神田さんのご家族の意向の変化で神田さんの退院のめどがつき、彼の表情はがらりと穏やかなものに変わったそうです。 |
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