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第25回
 口をきかない二人

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 この日を境に、二人は一切口をきかなくなりました。たまに、待ち合いロビーで顔を合わせても、実に他人行儀に目礼をするだけ。仲良くしていたのを知る患者さんはその様子を不思議そうに見たり、なかには二人のどちらかに「あんなに仲がよかったのに、喧嘩でもしたの?」と声をかける人もいましたが、タカさんもヨリコさんも何も答えないので、そのうち誰も聞かなくなり、その後、二人が口をきかないのが自然のようになりました。
 クリニックの事務の女性が田辺さんに言いました。
「女友達って、急接近してべったりだったのに、それが嘘だったように疎遠になることってありますよね。疎遠になるきっかけがあることもあるしないこともある。私も中学のとき、そういうことありました。あのお二人もそういうのだったんじゃないですか? そう思いませんか?」
 田辺さんは黙っていました。そういう側面があったとしても、ほんのわずかだろうと思ったからです。
 田辺さんは、タカさんとヨリコさんが口をきかなくなり、ご主人の介護をしていたころのように、淡々とした表情でクリニックにやってくる姿を見てこう思うのです。二人は、額をしたたかぶつけたとき、憑き物が落ちたように冷静になり我に返り、素直な二人はそれを取りつくろわなかったのではないか。ご主人を亡くし、生活がからりと変わった直後で、傍目にはそうは見えなくても、相当な混乱がつづいていたのではないだろうか。その時期を過ごすためにはなくてはならない友達だったのではないか。あの時出会わなければ二人は病気になり寝込んでしまったかもしれない。今後生きてゆくにあたって、あの時期、お互いが絶対に必要な存在だったのではないか、と。

小林光恵

新刊 『片づけられない女は太る』
小林光恵 こばやしみつえ
小林光恵のホームページ http://www02.so-net.ne.jp/~n-three/

 茨城県生まれ、東京警察病院看護専門学校卒業。看護婦として東京警察病院、茨城県赤十字血液センターに勤務。その後編集者を経て独立。現在は執筆を中心に活動している。
マンガ 『 おたんこナース 』、日本テレビ系列 『 ナースマン 』原案者。
著書に 『 ナースのおしゃべりカルテ 』(幻冬舎文庫)、『 12人の不安な患者たち 』(集英社文庫)、『ケアとしての死化粧―エンゼルメイク研究会からの提案』(日本看護協会出版会)等多数。

小林光恵 最新刊
『「片づけられない女」は太る』2005年11月15日発行
出版社/新講社
価格1155円(税込)

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