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「イラスト:影山直美」
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第21回
 とおいところ

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「じいちゃんにとってとおいところはな……トイレだ。距離的にはすぐそばにあるのに、身体の自由がきかなくなるにつれて、どんどんトイレがとおくなっていくんだ。これほどとおく感じるものはない」
 それを聞いた亮太君は、少しのあいだきょとんとしていましたが、その後、顔を崩し「じいちゃんが可哀想」と言って泣き出してしまったのでした。そのとき与四郎さんは「亮太、ここは泣くところではないんだ。<ほほう、なるほど、そうか、そういう捉え方もあるんだ、まいった、じいちゃんに負けました、くう>、といって悔しがるところだよ」と言いながらも、ひ孫の涙にジーンときてしまったのでした。
 与四郎さんは、うっすら涙を浮かべて、亮太君の写真にふたたび語りかけます。
「亮太、今日、顔を出したら、また、とおいところは何処か、を二人で言い合って、おまえがどのくらい成長したか、試してやるぞ。まさか、また、地球の裏側なんて言わないだろうな。亮太、早く来るんだ」
 と、襖が開き、与四郎さんの奥さん、つまり亮太君のひいおばあさんが部屋に入ってきます。ハンカチで目頭を押さえながら。
「気持ちはわかるけど、空想して亮太の写真に話しかけるの、やめてくださいよ。せつなくなりますから…」
「………」
 亮太君は、ひと月前に重い病気にかかり、与四郎さん宅のすぐそばの病院に入院中なのです。与四郎さんも亮太君も動くことができず、近くにいるのに会えないのです。与四郎さんにとって、今、いちばんとおいところは、亮太君の病室なのです。
 一日も早く、二人が再会できるのを陰ながら祈っています。

小林光恵

新刊 『片づけられない女は太る』
小林光恵 こばやしみつえ
小林光恵のホームページ http://www02.so-net.ne.jp/~n-three/

 茨城県生まれ、東京警察病院看護専門学校卒業。看護婦として東京警察病院、茨城県赤十字血液センターに勤務。その後編集者を経て独立。現在は執筆を中心に活動している。
マンガ 『 おたんこナース 』、日本テレビ系列 『 ナースマン 』原案者。
著書に 『 ナースのおしゃべりカルテ 』(幻冬舎文庫)、『 12人の不安な患者たち 』(集英社文庫)、『ケアとしての死化粧―エンゼルメイク研究会からの提案』(日本看護協会出版会)等多数。

小林光恵 最新刊
『「片づけられない女」は太る』2005年11月15日発行
出版社/新講社
価格1155円(税込)

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