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第20回
 わがままチケット

                          @ → A

 ナース10年目のユカさんの話です。
 日曜日、彼女のマンションに看護学生のときの実習グループメンバーが集まりました。メンバーの5人全員が集まったのは10年ぶり。
 その日、ユカさんの部屋にやってきた四人は、コートも脱がずに立ったままテーブルを囲んでぺちゃくちゃ話しはじめました。台所に立ってコンロに薬缶をかけながら、ユカさんは思いました。
<実習グループのメンバー同士って、やっぱり不思議な関係。クラス内で仲良しグループだったわけではない。でも、久しぶりに会ってもその年月分の空白が感じられないほどとても身近な存在。さっきだって、「おー」「どうもー」「おじゃまするよー」くらいの言葉を交わしただけで挨拶らしい挨拶はしなかった。こうして四人の会話を聞いていると、学生時代のあのころにタイムスリップしたみたい。三年間ずっと同じメンバーで、ときには2対3に分かれて喧嘩したり、学生指導担当のナースに絞られて自信をなくしたメンバーにジュースを奢って励ましたり励まされたり、また患者さんが搾り出すように言ってくれた「ありがとう」の一言に感動してカンファレンスのとき五人全員でおいおい泣いたり…と若いころの一時期に濃厚に苦楽をともにした間柄だから、特別な関係ということなのかしら。昔、看護学校の教務の先生が「看護学生時代の同級生同士って戦友のようなもの」と言っていたけれど、こういう感覚を言いたかったのかも。でも、私、どうして急に、メンバーを招集したくなったんだろう>
 ユカさんは、二週間前に、実習グループメンバーだったA子に電話しました。
「ひさしぶり。あのさ、私、わがままチケットを、使いたいんだ、まだ有効だよね、期限付きじゃなかったもんね。再来週の日曜日、みんなでうちにきて」
「はあ? 急だね。なにかあったの?」
「別にないけど…テレビをね、液晶の大きいのに買い換えて、DVDデッキとの配線とかなんとかいろいろわかんなくてすごく面倒臭くてさ、それを、わがままチケット使ってみんなにやってもらおうと思ってさ」
 これらは、電話をかけてしまってから咄嗟に出てきた言葉でした。
 わがままチケットとは、実習グループメンバーの五人で決めた約束事。ハードな看護学生生活を乗り越えて行くために、一人につき一回だけ実習グループメンバーにわがままを言うことができるというもの。わがままチケットを切った人のためには、多少の都合は後回しにして、そのわがままを最優先しなければならないというのがルール。あるメンバーは、受け持ちの患者さんとのコミュニケーションがうまくとれなかったときに、このチケットを使って、その原因究明のデイスカッションにメンバー全員朝までつき合わせました。また別のメンバーは、大失恋をした日に、テスト前日だというのにメンバー全員に遅くまでカラオケに付き合わせました。



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