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第17回
 お見舞いと告白

                          @ → A

 巷で「電車男」(インターネットの某匿名掲示板発の、電車の中で酔っぱらいから助けてあげたことをきっかけにはじまった恋物語)が話題ですが、この夏、私の周辺でもそれに少し似た出来事がありました。
 主人公は、小さなバー「モンド」の雇われマスターをしている和男さん(35歳)と、モンドの馴染み客の洋子さん(36歳)。
 モンドは、友達のナース朋子の行きつけで、私もときどき顔を出しています。カウンターだけの狭いお店ながら、明るくからっとした雰囲気の居心地のいいスペースです。
 洋子さんは、二年ほど前からモンドに来るようになり、その数ヶ月後ころから、洋子さんと和男さんの間に恋心が芽生えたことが、ほかのお客たちにもなんとなくわかるようになりました。
 「二人はお似合いのカップルになるね」
と周囲の馴染み客の間では全員の意見が一致していましたが、いつまでたってもその恋は進展しませんでした。
 二人ともバツイチ。その経験が、恋愛に対して臆病にさせてしまったのか、二人とも純情で不器用な中学生のように胸に秘めるばかりでどちらからも告白する様子がないのです。周囲の馴染み客の中には「じれったい」という人もいましたが、黙って温かく見守っていようということになり、そうしていました。
 7月某日。いつもの金曜日の夜、馴染み客がモンドのカウンターを囲み、「今日は洋子さん、遅いね」「ここ数日顔見てないから、今日あたり顔出すでしょ」などと話していたところへ、三日前に洋子さんが事故にあって入院したと、その場にいたナース朋子の携帯電話に一報があったのです。命には別状がないものの、右手右足を骨折し、ひと月ほどの入院が必要だとのこと。三日前の夜、自転車でモンドに向かっている途中に、自動車と接触してしまったそうです。彼女は、仕事から一旦アパートに帰り、それから自転車に乗ってモンドにやってくるのがパターンでした。
 和男さんは、事故の話を聞いた瞬間、持っていたグラスを落として割ってしまい、心配のあまりよほど動転したのか狭いカウンター内をくるくると回転したあと、誰も注文していないのにマティーニ、ジントニック、カンパリソーダとつきづきと作ってはカウンターに置いていきました。誰が声をかけても彼の耳には届いていない様子で、集中してフル回転で何かを考えているようでした。しばらくはみな黙って彼を見守っていました。
 そして和男さんは、ウオッカをあおって、小さい声ながら宣言するように言ったのです。
「心配だ。すぐにでも見舞いに行きたい。毎日行きたい。でも、店の人間とお客の関係では、そうするのはおかしい。よし……やっと腹が決まった。告白する」
「おー! そうだ、そうだー!」
 その場は拍手喝さいとなりました。

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