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第16回
 病気お見舞いの思い出

                          @ → A

 私は小さいころ、風邪を引き、高熱を出し、頻繁に寝込みました。
 りんごの煮たの 砕いた氷の砂糖がけ 葛湯
 このみっつは、私が風邪で寝込んだときに、母がよく作ってくれた食べ物。私は1960年生まれですから、60年代前半から70年代はじめごろまでの話です。
 りんごの煮たのは、りんごの軸に対して垂直に包丁を入れて二つに割り、それを水と砂糖で煮たものでした。煮あがったりんごは、丸い断面を上にして、おしゃじ(お匙のこと)でやわらかくなった果肉を掬って食べるのです。
 母は、りんごの煮たのを私の枕元に持ってくると、おしゃじを持って果肉を掬う真似をしながら
「こうやって、掬って食べると、おいしいからね」
と毎回必ず言ったものでした。そのおしゃじは、柄の部分がらせん状に捻れていて、柄の頭の部分には赤いゼリービーンズのようなガラスの飾りがついているもので、よくある平凡なものでしたが、うちにあるもののなかでは一番華美な一点で私のお気に入りでした。母が私のためにそれを選んで持ってきてくれたことに幸せを感じ、甘すっぱいりんごの煮たのがひと際美味しく感じられるのでした。
 当時、我が家に冷蔵庫はなく、私が熱を出すと、母は氷屋さんから大きな氷を買ってきて、アイスピックで砕き、氷枕を作り、額用の冷タオルを作るための氷水を作り、そして食べるためにも氷を砕いてくれました。
 母が、砂糖をかけただけの砕いた氷を枕元に持ってくると、<あーあ、かき氷用のいちごの蜜だの、練乳だの、カルピスだのがかかってたらいいのになあ>と一瞬思うのですが、ガラスの器に盛られた氷は食べやすく細かく砕かれており、よく見ると湯気のように冷気が上がっているのがわかり、蜜がけよりも練乳がけよりも美味しいように思えてくるのでした。さらに母は、これに例の私のお気に入りのおしゃじを添えて、「エベレストを、どうぞ」と毎度同じセリフを言うのでした。器の中のミニエベレストは、冷たくて砂糖そのものの味がして、喉に気持ちいい食べ物でした。
 葛湯もよく作ってくれました。御碗に葛粉を入れ、熱湯を注いですばやくかき回さなければ透明のトロリとした葛湯ができないので、そうします。母から、葛粉を入れたどんぶりを持たされ、そこに母が熱湯を注ぎ、私がかき混ぜます。母が、餅つきでもするかのように「さっ、いくよ、熱いよ、はい、混ぜて」とリズミカルに声をかけるので、まったく食欲がなかったのに、なんとなく気持ちが弾んできて、砂糖をかけた葛湯をするすると食べてしまうのでした。スプーンはもちろん例のおしゃじ。思えば母はかなりの乗せ上手でした。

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