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第13回
 ひとり拍手

                          @ ← A

 搭乗口は、荷物検査ゲートを通過したらすぐのところにあり、ご主人の拍手が続いているのが聞こえてきます。奥さんは困惑した様子で、椅子に座りうつむきます。
 そのときです。ひとり拍手の音が止み、
「がんばれよー」
 と荷物検査ゲートに向こうから男性の声がしたのです。ご主人の声のようでした。
 奥さんは、ハンカチで目のあたりを押さえ「がんばれよ」に答えるようにしっかりと頷いたのでした。
 「ひとり拍手」と「がんばれよ」で、私は船田夫妻のことを思い出しました。
 脳梗塞により半身不随になってしまった奥さんが病室から毎日リハビリ室に通い、ご主人はそれに付き添っていました。お二人とも七十代後半でした。
 船田さんの奥さんは、とても努力家で訓練熱心で、リハビリはかなり順調に進んでいました。その奥さんに付き添っているご主人は、それぞれの訓練メニューでたいへんそうな場面になると、
「がーんばれ」「がーんばれ」
と運動会のような応援をし、目標の回数まで達成できたり、目標の場所まで行けたりすると、パチパチパチとひとり拍手をするのでした。奥さんは、ご主人の「がーんばれ」がはじまるとむすっとしてしまい、ひとり拍手をされると、うんざりしたように「はあ」とため息をつくのでした。あまりうれしい応援ではなかったようなのです。
 ところが、奥さんが、ある難関な訓練を達成できたときのことです。ご主人は、難関なところにさしかかったからよほど気を遣ったのか、「がーんばれ」もひとり拍手もしないで見守っていたのです。
 すると奥さんは、不満気に口を尖らせて「拍手は?」と催促したのでした。

小林光恵

新刊『ケアとしての死化粧ーエンゼルメイク研究会からの提案』
小林光恵 こばやしみつえ
小林光恵のホームページ http://www02.so-net.ne.jp/~n-three/

 茨城県生まれ、東京警察病院看護専門学校卒業。看護婦として東京警察病院、茨城県赤十字血液センターに勤務。その後編集者を経て独立。現在は執筆を中心に活動している。
マンガ 『 おたんこナース 』、日本テレビ系列 『 ナースマン 』原案者。
著書に 『 ナースのおしゃべりカルテ 』(幻冬舎文庫)、『 12人の不安な患者たち 』(集英社文庫)、『ケアとしての死化粧―エンゼルメイク研究会からの提案』(日本看護協会出版会)等多数。

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