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「イラスト:影山直美」

小林光恵さんの
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第6回
 きっかけは通所看護の話

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「やはり、他のナースに交替したほうがよろしいのではないでしょうか。我慢なさらなくていいんですよ。そういうことはありますし。それに、通所看護がはじまったとしたら、そちらも担当の私がやらせていただくことになるわけですし、お嫌でしたら今のうちに」
「ん? そうなの?」
 それまでぶすっとしていた泰司さんが、はっとしたように目を丸くして言った。マリコが答える。
「はい。交替はめずらしいことではないんですよ。どうぞ遠慮なくおっしゃってください」
「いや、そのことではなくて……」
「は?」
 マリコが首をかしげると、そばにいた治子さんも同時に首をかしげた。
 すると、泰司さんがぼそぼそと言ったのだ。
「通所看護というほうでもマリコさんが担当してくれるんだね」
「ええ、そうなりますね」
「そうだったのか」
 そう言うと泰司さんは思わずといったふうにニヤリとすると、右手でしずかにタオルケットを引き上げ自分の顔を隠した。この瞬間から泰司さんの機嫌は直った。
 治子さんが顔をしかめて低い声で言った。
「あなた、通所看護というやつに行ったらお気に入りのマリコさんにやってもらえなくなると思ってずっと拗ねたってわけね。ひと月も。嫌だわ。気持ち悪い。エロジジイって感じ!」
 今度は治子さんが不機嫌になり、マリコに対し「いえ」「別に」しか言わなくなってしまった。泰司さんのときよりも、気まずい空気が室内に充満するようになってしまった。それがひと月つづいた。
 9月の末、息子の健司さんに縁談話が舞い込み、それを大いに喜んだ治子さんの不機嫌はどこかに吹き飛んでしまったのだった。そしてマリコは、以前のように和やかな雰囲気で泰司さんのケアを行えるようになったのである。

 以上の経過を聞き終えた私がマリコに「とにかく一段落して、よかったね」と声をかけると、「まあ、そうだけど・・・」とマリコは目を伏せました。
「そこで話が終わればよかったんだけどね。実は息子の健司さんにね、<縁談話の人とは結婚したくない。結婚してほしい>っていきなり言われて・・・。私はそんな気は全然ないから即丁重にお断りしたんだけど、以来、息子さん、元気なくなっちゃって」
 なるほど、はじめにマリコが追加でついたため息の訳はこれだったようです。

小林光恵

新刊『ケアとしての死化粧ーエンゼルメイク研究会からの提案』
小林光恵 こばやしみつえ
小林光恵のホームページ http://www02.so-net.ne.jp/~n-three/

 茨城県生まれ、東京警察病院看護専門学校卒業。看護婦として東京警察病院、茨城県赤十字血液センターに勤務。その後編集者を経て独立。現在は執筆を中心に活動している。
マンガ 『 おたんこナース 』、日本テレビ系列 『 ナースマン 』原案者。
著書に 『 ナースのおしゃべりカルテ 』(幻冬舎文庫)、『 12人の不安な患者たち 』(集英社文庫)等多数。


小林光恵 新刊
『ケアとしての死化粧―エンゼルメイク研究会からの提案』(日本看護協会出版会)

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