今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第99回 2011/7 チームアプローチで後天性障害の小児リハビリテーションに取り組む(1)

小児における脳性麻痺や精神運動発達遅滞などの発達障害を対象とするリハビリテーションを行う病院は全国に数多くありますが、それらの病院では脳炎・脳症、頭部外傷などの後天性障害のリハビリテーションはほとんど行われていません。「後天性障害に対する理解を深め、診断方法・評価方法などのシステムを整える必要がある」と話す神奈川県総合リハビリテーションセンターの小児科部長である栗原まなさんに、小児リハビリテーションの現状と課題についてお話をうかがいました。

神奈川県総合リハビリテーションセンター 小児科部長
東京慈恵会医科大学 小児科 准教授
医学博士
栗原 まな 氏

神奈川県総合リハビリテーションセンター神奈川リハビリテーション病院

小児リハビリテーションとは

小児リハビリテーションの対象疾患は、脳性麻痺・知的障害・自閉症などの生まれつきの発達の障害(発達障害)が主ですが、脳症・脳炎・脳外傷・脳血管障害などの後天性の脳障害も対象となります。後天性障害は、高いところから落ちたり、どこかにぶつけたりしたときのケガによる後遺症によるものや、プールで溺れて窒息したときなどの低酸素脳症などが原因で起こる脳障害ですが、脳卒中や脳梗塞などの血管障害を起こす子どもも少ないながらも存在します。

成人を対象としたリハビリテーションは「獲得されていた機能の回復」を目的としますが、小児においては「まだ獲得されていない機能を獲得する」ことも目的としており、一般的には両方を合わせて「小児リハビリテーション」と言われています。小児は成人と違って日々成長しますから、身体の発達を観察しながらリハビリテーションを行う必要があります。また、小児の脳には可塑性があることから、成人に比べて明らかに違った回復スピードを見せる例もあり、成人と小児ではリハビリテーションのアプローチが随分と異なるのです。

後天性障害への対応が小児リハビリテーションにおける課題

全国には国立のリハビリセンターや成人のリハビリテーションを対象とする病院は数多くありますが、それらは小児を対象としていません。先ほどもお話したように、成人と小児ではリハビリテーションの過程が違うので、成人を担当しているスタッフでは小児に対応するのが難しいからです。とはいえ、小児を対象とする病院が少ないわけではありません。脳性麻痺などの発達障害に取り組む病院は全国にありますし、リハビリテーションプログラムやシステムもある程度整ってきたと言えます。しかし、後天性の障害を専門とする病院は圧倒的に数が少なく、リハビリテーションプログラムもまだ試行錯誤の段階でまとまっていません。この事実は小児リハビリテーション全体の課題だと私は考えています。

チームで取り組む神奈川県総合リハビリテーションセンター

私が小児科部長を務める神奈川県総合リハビリテーションセンターでは、小児の後天性脳損傷のリハビリテーションに力を入れており、最高のリハビリテーション環境を提供しています。これまでに脳症をもつ子どもは150例以上、脳外傷は100例、脳血管障害は50例近くの患者さんを診察してきました。

成長過程にある小児の場合は診断評価が非常に難しく、また、評価に基づいて具体的なプログラムを作ったとしても小児は日々変化するので、成人に比べて短い期間でプログラムを書き換える必要があります。そもそも脳波を取るために寝かしたくても、すぐに動いたりするので正確な記録をとることも容易ではないのです。そして、小児の場合は家族の協力が欠かせませんので、家族に対するケアも必要です。医療面だけでなく教育面や地域生活面、療育支援のことまでトータルで考えなくてはなりません。そのため、小児リハビリテーションにおいてはチームアプローチが非常に重要な役割を果たすのです。

当院では医師が中心となって全体の統制を図りながら、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士、体育指導員、栄養士、薬剤師、ソーシャルワーカー、職能指導員、リハ工学士、教師、保育士が一体となったチーム体制で取り組んでいます。これだけのスタッフが揃っているリハビリテーション病院は全国でも珍しいと言えるでしょう。

チームで全情報を共有し、小児リハビリテーションの質の向上を目指す

当院がチームアプローチによる取り組みを本格的に始めたのは2001年でした。現在の入院平均日数は70日程度ですが、当時は160日だったので、今思えば効率が良くない状況だったのでしょう。チームアプローチの開始にあたって、急性期医療では頻繁に用いられるクリニカルパスをリハビリテーションの分野でも導入し、インフォームドコンセントの充実や業務の改善に役立てるようになりました。また、評価や機能訓練のプログラム作成などもチームで行い、毎週のミーティングでは患者さんの訓練状況はもちろん、親御さんから聞いた苦情や困っていることなどを全スタッフで共有しています。

看護師などは親御さんが不安に思っていることや、心配されていることをよく聞くようです。人によっては辛くあたられることもあるでしょう。言われたスタッフがひとりで抱え込むことは良い結果を生みませんから、ためこまずにミーティング時に必ず話すようにしています。そうすることで、効率の良いリハビリテーションを提供でき、かつスタッフも生き生きと過ごせるようになるのです。

インタビュー一覧へ
ページの先頭へ戻る