今月のインタビュー

第104回 2012/1 「介護職員等によるたんの吸引等」の法改正に伴う訪問看護師の役割(1)

平成23年度の法改正により、これまでは医師の指示を受けた看護師などのみに認められていた「たんの吸引等」の医療行為が、介護職員も実施できるようになりました。今年4月からの施行に向けて、介護職員との連携がより求められる訪問看護師への研修などを行っている、全国訪問看護事業協会常務理事の上野桂子さんにお話を伺いました。

社団法人全国訪問看護事業協会 常務理事
社会福祉法人聖隷福祉事業団 法人本部理事顧問
上野 桂子さん

社団法人全国訪問看護事業協会

変化する社会状況に応じるための医療政策の改正

昨今の新聞やニュースでは経済の伸び悩みなど、さまざまな問題がとり上げられていますが、「高齢社会の進行」や「介護者人口の不足」も日本が抱える大きな課題です。総務省と国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、2005年は1億2,777万人の人口のうち65歳以上は20.2%、15~64歳は66.1%だったのに対し、50年後の2055年には人口は8,993万人に減少し、65歳以上は40.5%、15~64歳は51.1%になると試算されています。

また、ターミナルケアの場として"自宅"を選択する機会が増えるとの予測もあり、医療提供の場が医療機関から居宅に拡大することも今後起こりうる大きな社会変化といえるでしょう。

これらの社会状況に対応すべく、安全な医療提供を保証する仕組みと運営を目指した医療政策も、日々検討を重ね改善されています。今回お話しさせていただく、平成23年度の社会福祉および介護福祉法の一部改訂における「介護職等によるたんの吸引等の実施のための制度」もそのひとつです。

※2005年(平成17年)は総務省「国勢調査」、2055年(平成67年)年は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」より

介護福祉士などによる「たんの吸引等」の医療行為が可能に

在宅や特別養護老人ホームにおける「たんの吸引等」の医療行為はこれまで、医師の指示のもと看護職等が行ってきました。2004年以降は、当面のやむを得ず必要な措置(実質的違法性阻却)として、介護福祉士などの介護職員も行うことを"容認"という法的に不安定な状況下で実施されていました。患者さんおよび利用者と介護職員との間では同意のもとに吸引などが行われていたのでしょうが、事業所が責任を持つということは恐らくなかったと思います。つまり、万一の事故が起きた場合の責任の所在が非常に曖昧な状態だったわけです。そして、2010年にはリハビリ関係の職員も実施可能と法解釈の改正が行われ、たんの吸引等の実施者が広がっていきました。

その後、「法的にきちんと位置づけるべき」、「在宅でもホームヘルパーの業務として位置づけるべき」などの指摘を受け、2010年6月「規制・制度改革に係る対処方針」において「医行為の範囲の明確化(介護職によるたんの吸引、胃ろう処置の解禁等)…」について閣議決定されました。その流れの中で2010年7月から厚生労働省の中に「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」が設置され、介護職員等による痰の吸引等の実施のための法制度の在り方、研修の在り方、試行事業についての検討が行われました。そして、2011年6月には「社会福祉士および介護福祉士法」の一部改正が行われ、2012年4月の施行予定で、介護職員などによるたんの吸引や胃や腸にチューブで栄養剤を注入する「経管栄養」の実施が認められました。

しかしながら、介護職員であれば誰でも実施できるわけではありません。介護事業所は「医師の指示や看護職員等の医療関係者との連携の確保」などの一定の要件を満たした上で、都道府県知事に登録する必要があります。これまで吸引等を行っていた事業所でも、登録していなければ所属する介護職員は吸引等を実施できなくなるということです。また、介護職員も50時間の講義や演習、実地研修を修了し、「認定特定行為業務従事者」として認定証を受けた者のみが実施できるようになります。これまで介護職員にかかっていた吸引等の実施に伴う責任を事業所でも負うことになり、責任の所在が明確化されました。

安全な実施のためには、訪問看護師の正しい理解が不可欠

介護職員がたんの吸引等を行うには、医師の指示のもと「看護職との連携」による安全確保が図られていることを条件としています。連携を求められる以上、訪問看護ステーションなどに属する看護職たちも制度を理解しておかなければならないのですが、今回の「たんの吸引等」に関する法改正は介護職員に焦点が当てられているため、看護職への情報アナウンスが圧倒的に少ないのが現状です。

全国訪問看護事業協会では、全国の訪問看護ステーションが健全で質の良い訪問看護を提供できるように、法改正なども含めた訪問看護にまつわるさまざまな情報を発信しています。今回の「介護職によるたんの吸引等の実施」に関しても、わかりやすい情報提供に努め、訪問看護ステーションの皆さんには正しい理解を深めてもらいたいと考えています。このため2011年9月以降は、全国の訪問看護ステーションの管理者を対象にした研修会を開催し、制度の詳細や訪問看護師の責任と役割などについてお話をしてまいりました。オリジナルで「平成24年度法改正に伴う訪問看護師の責任と役割」の資料集を作成し、それを元に4時間程度の講義とディスカッションを行う、といった内容で実施しています。

研修会最後には質問タイムを設けて、皆さんからの疑問や不安の声をお聞きしています。集まった"現場の声"は協会にてとりまとめ、厚生労働省へ伝えることも行っています。

これまでに寄せられた声には、「介護職員は緊急時に的確な判断ができるのか」、「今まで吸引を行っていたヘルパーさんが認定をとらなかったら吸引できなくなるが、それでは利用者が困ってしまうのでは」など多くが寄せられています。中には「これから看護師は吸引をしなくてもよいのですか?」という質問もあり、これには大変ショックを受けました。

私たちは研修会を開いたり、ホームページへ情報を掲載したりして色々な情報提供を続けていますが、決して介護職員によるたんの吸引等を推進しているのではありません。本来は看護職がやるべき業務だと考えていますので、介護職員に業務をゆだねる場合は看護師も積極的に協力し、安全に行えるよう体制を整えてほしいとお伝えしたいのです。正しい理解のもと、たんの吸引等が実施されるように、きちんとした情報発信と周知の徹底を図ることが当協会の使命と感じています。

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