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2016/7

地域の医療事情を変える情報システム 「さどひまわりネット」の挑戦とは(後編)

医師や診療所の不足が深刻であった佐渡島の医療事情を改善するため2013年に運用を開始したネットワークサービスが「さどひまわりネット」です。島内の医療機関や介護施設が連携し、患者さんの情報を共有する革新的なシステムで、練り込まれたコミュニティづくりの仕組みが全国から注目を集めています。計画段階から携わってきた佐渡総合病院病院長の佐藤賢治さんに詳しいお話を伺いました。

佐藤 賢治

新潟県厚生農業協同組合連合会 佐渡総合病院 病院長 / 特定非営利活動法人 佐渡地域医療連携推進協議会 理事 / さどひまわりネット管理委員会 委員長

ユーザー会の定期開催により コミュニケーションを活性化

前編はこちら

さどひまわりネットの目標は、多職種がコミュニケーションを取りながら医療・介護を協働作業として提供し、患者の生活を支援すること。関係者が顔見知りになり、コミュニケーションを取りやすくすることが重要なミッションだと考えています。そこで3ヵ月に1度ほど、交流イベントである「さどひまわりネットユーザー会」を開催しています。

ユーザー会は、まず介護職の方々に声をかけてスタートさせました。理由は、さどひまわりネットそのものへの参加率が最も高い施設が、介護施設だったから。彼らは、医療の情報をとても強く求めているんですよね。介護施設に来るのは、ほとんどが医療を受けている方です。だからこそ、少しでも医療に近づき、ケアに役立てたいと考えているのでしょう。また、医師会のような場が存在する医療業界とは違い、介護職がつながる場がないことも影響しているようでした。実際に介護施設の方々が会合で集まると、互いが抱えている悩みなど共通項が多かったため、すぐに話が盛り上がりました。その盛況具合を見て、次第に医師や看護師の方々を招致し、徐々に多職種の集まりへと変化させていったのです。

介護施設の集まりから始まったことで、病院が集まったときに漂う「上から感」がなくなったことや、介護職の方々に運営役員の選出などをお任せすることでユーザー主導の流れをつくったことが奏功したのでしょう。現在では、歯科医師や保険薬局、さらには行政機関や市議会議員の方々まで参加していただけるようになりました。地域連携システムを形成するには、「画面上での交流」と「人が集まる場所」の両方を設けることが欠かせません。今後も参加職種を増やし、より実践的なディスカッションを促して、オフライン・オンライン、双方での交流が活発に回る仕組みを築いていきたいと思っています。

 

目標は医療・介護行政へつなげること そのため介護職の力が欠かせない

さどひまわりネットは、医師ではなく、その周辺の人々が中心になって動かすべきシステムだと思っています。医師は、原則として自分が担当する診療科の治療のみを行う職業です。「患者さんの疾患は、外科も内科も私がすべて治療します」という医者はまずいないでしょう。ですから、考え方が、基本的に自己完結型なのです。一方、看護師をはじめとする周辺スタッフは、さまざまな科の患者さんを看なければなりません。「自己完結できない」ということが身体に沁みついているので、多職種間のコミュニケーションに馴染みやすいのです。

そして最も大きな力をもつのが、医療のさらに周辺にいる介護職の方々です。歴史の長い医療の世界を中から変えるのは容易なことではありませんが、フットワークが軽く危機感の強い介護職の方々が外から働きかければ、介護だけでなく医療の世界も動きます。ぜひ「介護が医療を変えるのだ」という意識を持って取り組んでほしいですね。

今後は、介護施設側が医療に向けて情報発信するための機能も強化したいと考えています。最終的な目標は、さどひまわりネットの情報を活用し医療や介護の行政計画につなげること。医療・介護・福祉・行政がつながることで集まる多くの情報を〝攻め〞に活用できれば、きっと地域の未来は明るくなると考えています。

佐藤 賢治

新潟県厚生農業協同組合連合会 佐渡総合病院 病院長
特定非営利活動法人 佐渡地域医療連携推進協議会 理事
さどひまわりネット管理委員会 委員長

【略歴】
1986年
新潟大学医学部卒業、新潟大学外科教室入局
1995年
佐渡総合病院 勤務
2001年
佐渡総合病院 外科部長
2012年
NPO法人佐渡地域医療連携推進協議会 理事、ネットワークシステム検討委員会委員長
2014年
さどひまわりネット管理委員会 委員長
2015年
佐渡総合病院 副病院長
2016年
佐渡総合病院 病院長

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