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2018/5

介護経営の成功に欠かせないのは、経営者の“想い”を伝えること

人手不足の問題は、多くの介護福祉施設が抱えている悩みです。職員の集団退職によって倒産する法人も後を絶ちません。人材確保は、安定的な経営を維持するための要ともいえるのです。介護職が夢や目標を持ちながら生き生きと働き続けるために、経営者が今、真っ先に取り組むべきことは何なのでしょうか。介護職にスポットライトをあて、毎年多くの感動を生み続けている日本最大級の介護イベント「介護甲子園」を運営する、日本介護協会の理事長 左敬真さんにお聞きしました。

左 敬真

一般社団法人日本介護協会 理事長

日本の元気を支える介護は魅力あふれる仕事

私が理事長を務める日本介護協会は、「人を育み 未来につながる 魅力ある社会をつくる」をスローガンとし、介護の魅力を業界内外に発信していくことを目的に2009年に設立されました。事業の大きな柱は、介護業界で働く人が最高に輝ける場所である「介護甲子園」の企画・運営です。年に一度開催される介護甲子園には、全国からエントリーされた事業所の中から独自の選考基準で選ばれた優秀事業所が集い、事業所の想いや取り組みを発表し合って介護甲子園における“日本一の事業所”を決定しています。キャッチフレーズは、「介護から日本を元気に!」です。介護職の方々にこの仕事のすばらしさを再認識していただくことで、事業所や地域の活性化につなげ、介護から日本を元気にすることを目的としています。

2011年の第1回大会では、135事業所からのエントリーだった当大会も、2018年に行われた第7回大会では、過去最高の6,472事業所がエントリーしました。年々、大幅に参加事業所数が伸びており、各事業所の発表内容も非常に充実したものになってきました。

まさに介護の原点だと感じたのは、第1回大会の特別養護老人ホームの発表です。それは、長年お墓参りに行っていないというおばあちゃんに、職員が有給休暇をとって付き添ったというストーリでした。実は、おばあちゃんには生き別れた二人の妹がいて、お墓で再会できるように連絡をしていたという感動秘話もありました。人が歩んできた人生の集大成に寄り添うことができる、まさに介護の醍醐味を感じることができました。ほかにも外国人の介護職からの発表や、正しい評価基準を設けて職員の意欲向上につなげているという発表などもあり、介護甲子園では毎年、夢や希望がたくさん詰まった発表が行われています。介護という仕事は、自分も将来利用することになるだろう人生に必要な社会インフラを、自分の手でつくっているようなものです。つくづくすばらしい仕事だと実感します。

 

人手不足は低賃金が最たる理由ではない

介護は、これほどにやりがいと魅力にあふれる仕事なのに、「人手不足」という問題はなかなか解消されません。2020年を迎えるころには、さらに25万人の介護職が必要になると予測されているにも関わらずです。求職者の低迷や介護離職の原因を、とかく賃金の低さや労働条件の過酷さなど、制度上の問題に求めがちだと感じますが、私は一概にそうは言えないと思います。

確かに介護業界の賃金水準は低いです。しかし、何十年にも渡って成長してきた産業と、介護保険制度が施行されてからの17年の歴史を比べると、平均賃金にすると低いに決まっています。若い産業のほうが弱いですからね。ただ、介護業界で就職しようという人たちは、低賃金であることは現実を見て納得して志望しているわけなので、意外と賃金の問題は人出不足の前提にはあがらないことが多いと思います。

それから、介護はとても働きやすい環境ですよね。例えば、9時~18時まで、夜勤担当などとシフトによって時間がきちんと管理されています。決められた時間に帰って、プライベートを確保できる。そういう意味での働きにくさはないはずなのです。

 

経営者の“想い”を伝えていないことが大きな問題

では、事業所が人手不足に悩む原因はいったいどこにあるのでしょうか。私は、そもそも経営者が、法人の理念や姿勢をきちんと内外に伝えることができていないことに問題があるのではないかと考えています。

外向けの発信に関して言いますと、今一つ、抜きんでた採用方法が確立されていないというのが実感です。ですから、優秀な学生たちは他産業へ就職してしまい、言葉は悪いのですが、残念ながら介護業界における人材のグレードは落ちてきていると思います。どの法人でも採用活動に対して試行錯誤されていますが、法人の魅力をしっかりと打ち出すことができていないことにあらためて向き合う必要があるのではないでしょうか。

すでに働いている職員に対しては、まずは職員が辞める理由を正しく理解する必要があります。先ほどもお伝えしましたが、賃金の問題は意外と退職理由にはなりにくく、また職員間のコミュニケーション不足や職場環境の問題もありますが、退職の最も大きな理由は、「経営者が何を考えているのかわからない」というということにあります。「賃金が低いから辞めます」と言って退職する職員もいるかもしれませんが、根底にある思いは、その法人が“好き”か“嫌いか”にあるわけです。そこに気づけない経営者ですと、その事業所の存続は危ういですね。最悪の場合、倒産を招く集団退職というパターンにもなりかねません。経営者自身の言葉で、何を目指して法人を運営しているのかを伝え続けなければ職員は辞めてしまい、人出不足に延々と悩むことになってしまうのです。

後編では、経営者が職員に“想い”を伝えるための具体的な方法についてお話しいただきます。

左 敬真

一般社団法人日本介護協会 理事長
株式会社いきいきらいふ 代表取締役

1977年、東京生まれ。設計士を目指して大学院へ進んだが、高齢者の住環境を視察するために介護施設を訪れた経験をきっかけに、介護業界に進むことを決意。2002年に大学院卒業と同時に企業した。現在、「自分の受けたい、家族に受けてもらいたい介護」を理念に、全国初の入浴特化型デイサービス「いきいきらいふSPA」を展開中。業界内外から注目を浴びている。

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