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2018/2

医療需要が激増する医療圏にある病院の地域医療を重視した医療提供体制とは(前編)

医療需要の激増する栃木県の中で、比較的医療資源が豊富だと言われている県南医療圏。ここに位置する自治医科大学附属病院では、該当医療圏だけでなく、周辺地区からの患者の流入が予想され、今その受け入れ体制づくりを進めることこそが経営のカギとなっています。自治医科大学附属病院 病院長の佐田 尚宏氏に医療提供の体制づくりについてお話をうかがいました。

佐田 尚宏

自治医科大学附属病院 病院長

県南地域だけでなく隣接県もカバーし増加する患者の受け入れ体制を整備

自治医科大学附属病院は、1972年に設立された自治医科大学を母体とし、本学の教育理念を実践に移す場として2年後の1974年に開院しました。許可病床数は1,132床、診療科は46科を開設しています。

栃木県には6つの医療圏があり、当院は下野市、小山市、壬生町などの三市三町で構成される「県南医療圏」に属しています。人口は約48万人。「宇都宮医療圏」の約51万人に匹敵する規模になっています。圏内には、1,000床を超える病院が、当院のほかにも獨協医科大学病院もあるうえ、新小山市民病院やとちぎメディカルセンターしもつがといった病院が続々と新築移転オープンしています。また、保健および医療の従事者を人口10万対でみると、県全体を上回っており、特に医療施設に従事する医師数や看護師数は大きく上回っています。栃木県全体でみるとかなり特殊な医療圏といえます。

今後、栃木県の医療需要は年々増加し、2035年まで続くことが予測されています。その変化に伴い、周辺の医療圏では相対的に病床数が不足し、当院が位置する県南医療圏への流入がより増加することが見込まれています。そのため、県南医療圏だけでなく、栃木県全体の医療圏、そして隣接する茨城県の西側、埼玉県の北側などの広い範囲を医療圏ととらえる必要があります。加速度的に増えると思われる受診患者の受け皿となるよう、当院の医療提供体制を整えていかなければならないと考えています。

また、今年度の重点項目の一つにあげている、高度急性期もより強化していきたいと思います。特に脳卒中は、2025年問題関連で発表された統計の中で、10年後、20年後には今より患者数が40%増え、がんの患者数増加よりも増加率が高いことが示唆されています。これまでの当院は、人員不足などが原因で、脳卒中に関する機能を十分に発揮できていませんでした。がんの化学療法、急性期リハビリなども含め、当院の役割をきちんと果たせるよう体制を強化していきたい。高度急性期・急性期医療をより多く提供できるように努めているところです。

 

年間2,000件増の手術にも対応する新館南棟(仮称)を建設中

現在の新入患者数は、年間2万3,000人強ですが、今年度は2万4,000人を目標としています。
そして将来的には、2万6,000人の診療を可能にする体制を構築しようと計画中です。その強化策の一つが、2018年10月の完成を目標に工事を進めている新館南棟(仮称)です。新棟には、手術室6部屋を増室し、ICU6床増床、HCU新設、IVR(血管内カテーテル治療)センター新設などを予定しています。手術室の増室によって、これまで頭打ちだった手術件数が、年間プラス2,000件程度を受け入れられるようになり、より充実した高度急性期の体制が整います。

写真左:建設中の新館南棟(仮称)

また、そのための人員確保も進めています。医師は特に外科系の診療科で努力してもらっていますし、医師臨床研修マッチングプログラムでJ1、J2といった若い有能な医師も集めています。また看護師も、新館南棟のオープンに向けて100人程度を採用しようと活動を強化しています。ハード面を整え、優秀なスタッフをそろえる。将来の2万6,000人の新入患者の受け入れ、そして高度急性期の医療強化に備えて、今できることを着々と進めています。

後編はこちら

佐田 尚宏

自治医科大学附属病院 病院長

【略歴】
1960年生まれ。1984年東京大学医学部卒業、1994年東京大学医学部第一外科助手。ドイツDuesseldorf 大学消化器科客員研究員、キッコーマン総合病院外科部長を経て、2000年より自治医科大学消化器・一般外科講師に就任。2003年同助教授、2007年同教授・鏡視下手術部長。2015年に病院長に就任。

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