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2017/4

医師・看護師過剰の時代が来る!? 医療改革とともに変えていく看護師・介護士の働き方

医療費や介護保険の制度改革が進む中、医療・介護サービスの提供方法も変化します。医療費制度の変化は、看護師や介護士の就業状況や仕事の方法にどのように影響していくのでしょうか。医療経済の研究に携わる慶應義塾大学総合政策学部 教授(医療経済研究機構 研究部長)の印南一路氏にお聞きしました。

印南 一路

慶應義塾大学 総合政策学部 教授 / 一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 / 医療経済研究機構 研究部長

医療の専門特化と病院の囲い込みが医師・看護師不足の現状を生む

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技術の発達につれ、医療は専門に特化してきました。例えば、外科/内科の区分しかなかったのが、心臓外科/消化器外科/呼吸器外科など臓器別に特化してきています。難しい病気にも対応できるようになったのですが、その一方でひとりの医師が診られる領域がどんどん狭くなっているのです。患者さん、特に高齢者は複数の病気を併発することが多いため、例えば心臓と肝臓と胃が悪い患者さんであればひとりの患者さんに対し3人の医師が必要だという状況が生まれたのです。
これが現在の医師不足の要因の一つです。複数の臓器にわたり診られる総合診療医の育成も進んではいるものの、まだ充分ではありません。

看護師も医師ほどではありませんが認定看護師や専門看護師など、専門に特化してきています。近年増えている在宅看護や訪問看護も専門分野の看護師と言えるでしょう。医学の進歩とともに、医療従事者の専門性は高まり、チームで相互協力を行うため、結果的に業務の密度が増えているのが現状です。

また、診療報酬が改訂され、7対1看護に報酬が付くようになりました。これには手厚い看護を行う病院の入院基本料を上げ、評価する意図があったのです。
病院の多くは民間事業体ですから、収入確保のために少しでも獲得できる診療報酬の点数を上げようとしますから、多くの病院で7対1の看護体制を取るため、看護師を多数採用するようになりました。結果、看護師は7対1の病院に集中し、その他の病院で看護師が不足する事態になりました。現在一部の病院にある種囲い込みされているともいえる状況にあります。

必要な医療従事者数を確保できていないのは、医療系学部の定員などとは別のところにも原因があったのです。

 

医療・介護の需要は15年後には右肩下がりに

これらの医療・介護業界の大きな動きを経て、病院や訪問看護ステーション、あるいは福祉施設などを含むあらゆる場所で、働き方に変化が生まれていくでしょう。特に、看護師の配置については現在、7対1過多の状況を改善すべく、中医協では議論を重ねていますから、今後看護師の採用条件や労働条件が変わってくる可能性もあります。政府が進めている働き方改革は看護師・介護士の職種にも波及してきます。経営層は変化の動向を見極め、対処していくことが必要だし、現場の職員は自分にマッチした職場を見つけていく必要があります。

先ほどから指摘している医師・看護師不足の件ですが、実は2035年ころをピークに少しずつ需要過多から供給過多へと傾いていくと考えられます。なぜなら、日本の人口は今後減っていくと考えられているからです。これからは急性期病院だけでなく、慢性疾患をもつ高齢者向けの長期的な療養環境を整備したり、終末期の介護へと力を入れていく必要がありますし、制度も変えていかなくてはならないはずなのに、進んでいないのが現状です。今後、需要と供給が逆転した際、日本がどうなるのかはまだ研究段階ですが、供給過剰を見越した政策も考えていかないといけません。

 

自分の仕事に誇りをもてるような環境づくりを目指す

従事者の供給過多に傾いた時、危険なのは介護士の職業です。介護士も同じく需要過多から供給過多に変化していくでしょう。外国人介護士やロボットによる介助など、今後人件費の安い“介護職”が参入することが考えられる中で、介護士はケアの質を確保しつつ、競争に生き残っていく必要があります。

介護の仕事は、残念ながら看護師の仕事の専門性に比べ、低く見られがちなのが現状です。現状の待遇のままでは、今後需要が減っていく中で職業の人気が下降していき、離職者が増えてしまうでしょう。よい人材が業界から流出してしまい、結果サービスの質が下がる負のスパイラルに陥ってしまう可能性があります。

実は、過去、看護師でも似たような問題が発生していました。
しかし現在は、看護職では看護師長や看護部長などの階級が整備され、社会的地位や給与の上昇などを含め、処遇に対するモチベーションが保てるようになりました。また、一般の患者さんにとって、看護師は「やさしい人」「病気をケアしてくれる人」とプラスのイメージが強い、人に感謝される職業です。
介護士も、待遇と職のイメージを改善し、職に対し誇りややる気をもてる職業としていかなければいけないのです。専門性の高い介護技術を開発するなどして介護の価値を高め、介護士の社会的立場を上げていく必要があるでしょう。

医療や介護に従事している人は、人のケアを行うという面において直接的な仕事を行っています。目の前の人を救うことができ、誰かのために役立てるという達成感や満足感は非常に貴重であることを忘れないでください。私たち制度を考える者としても、従事者が自分の仕事に誇りをもてるような制度改革に努めていきたいと思います。

 

2017年以降、看護師・介護士の働き方に革命が続く

今、単独世帯や老老介護が行われている家庭が増える中、介護の需要はますます増えています。本当は、社会全体での医療・介護需要を考えると、医療・介護制度はドラスティックに変わらなければいけないはずなのに、まだ変化があるとは言えません。
おそらく2017年度中には方向性が見えてきますから、改革に関する情報を集めるアンテナを張っておくとよいでしょう。

印南 一路

慶應義塾大学 総合政策学部 教授
一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会
医療経済研究機構 研究部長
経済財政諮問会議一体改革推進委員会評価・分析WG特別委員
元中央社会保険医療協議会公益委員

【略歴】
1982年
東京大学法学部
1988年
ハーバード大学行政大学院
1992年
シカゴ大学経営大学院

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