今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第89回 2010/09

ケアマネジャーによる認知症患者を抱える家族へのケア

認知症患者が安心して生活を送るためには、ご家族の介護は不可欠です。高齢化が進む日本では、認知症患者数が年々増加傾向にあり、介護をするご家族への支援が、今後ますます重要となってくるでしょう。ケアマネジャーである岩崎美穂子さんに、介護現場における「ご家族へのケア」についてお話をうかがいました。

社会福祉法人 悠久会
八千代市在宅介護支援センター八千代城
介護福祉士・介護支援専門員
岩崎 美穂子 氏

八千代市在宅介護支援センター八千代城

「痴呆」から「認知症」へ

認知症を痴呆と呼んでいた2004年以前は、痴呆に対するイメージが悪く、「痴呆なんて恥ずかしい」という思いから、ご近所の目に触れるのを隠したり、病院へ行くことを拒んだりするご家族が多かったように思います。また、痴呆を単なる"ボケ"と捉え、病気として認識していないご家族や、兆候のある方へ精神科の受診を勧めても、精神科自体に拒否反応を示すご家族もいらっしゃいました。そのような社会的風潮が、早期発見・早期治療の支障になっていたと言えるでしょう。また、本来なら、脳の神経細胞の機能低下や死滅が原因とされる「アルツハイマー型」や、脳梗塞、脳出血などによる「脳血管性」などに分類されるはずの痴呆ですが、特に、内科系で受診された患者さんの場合、どんな症状であっても「痴呆」とひとくくりに診断されることが多かったのです。介護現場ではそれぞれに合った介護を行わなければなりません。ところが、私たちには「痴呆」とだけ情報が下りてきますから、適切なケアが難しく、患者さんへの接し方に戸惑うことが多々ありました。

2004年の呼称変更で痴呆から認知症になってからは、病気として捉えられる傾向が強まり、周囲やご家族に少しずつ受け入れられるようになってきたと思います。同時に精神科を受診することへの抵抗も弱まったと感じます。また、2000年より介護保険制度が始まってからは、認知症の認定調査を行う際、必ず主治医からの意見書をもらいますので、患者さんの細かい症状についても知ることがきるようになりました。「アルツハイマー型」や「脳血管性」などに分類された診断結果に基づいて、正しいケアを施すことができるようになったのです。

認知症への大きな戸惑い。ご家族の理解を得ることが最も難しい

最近の話ですが、お母さまが夜中に出歩き、警察に保護されたご家族がいらっしゃいました。出歩いた理由をお母さまに聞いてみると夜中なのに「犬の散歩に出かけていた」のだそうです。このご家族にとってお母さまの徘徊は、大変ショックな出来事だったでしょうし、実際かなり戸惑われたようです。この事実を受け入れることができなかったためか、認知症についてあまり知らなかったためなのか、徘徊などの問題行動は頻繁にあったにもかかわらず、しばらく介護サービスを利用されていなかったそうです。

この前までしっかり振り舞っていた自分の親が、認知症になったことを受け入れることは簡単ではありません。「あんなに恐い親父だったのに……」「なぜ自分の親を叱らないといけないんだろう……」といったように、ご家族にとっては計り知れない葛藤と戸惑いがあるものです。兆候を察知して、すばやく精神科や心療内科に行かれるご家族が増えてきているとはいえ、認知症を受け入れることに抵抗を示すご家族がまだまだ多いのが現状です。

この「認知症に対するご家族の理解」を得ることが、ケアマネジャーにとって最も難しいと感じることのひとつです。認知症の早期発見・早期治療は、患者さんにはもちろん、ご家族にとっても非常に重要なことです。認知症が軽度のうちは、ご家族も事実を受け入れやすいでしょうし、症状の進行にともなって少しずつ理解を深めていけます。しかし、ご家族が認知症を受け入れられなかったり、認めたくなくて、どんどん症状が悪化し、気づいたら重度の認知症になっていた……というケースも。そうなってからでは、精神的にも肉体的にもご家族の負担が大きくなってしまうので、兆候が表れたら「認知症かもしれない」という事実を早めに受け止め、精神科などを受診していただきたいのです。

家族にとって負担の大きい介護。ケアマネジャーによる家族へのケア

介護をとりまく社会的な問題として、介護する「ご家族へのケア」も広く知られています。たとえ認知症を理解していたとしても、患者さんの言動に日々対応するご家族の負担は相当なものです。長期にわたる介護で疲弊してしまうこともあり、介護する側であるご家族が倒れてしまうというケースも少なくありません。

では、ケアマネジャーがご家族に対してできるケアとは何でしょうか。  毎月、介護サービス利用者のご自宅を訪問する際に、患者さんの様子と一緒にご家族の疲れなども聞きながら会話しています。「お疲れのようだな」と感じた場合、ショートステイやデイサービスの利用を勧めています。介護の質を保つためにも、ご家族の息抜きや休息の時間を作ってあげることも、ケアマネジャーの大切な役割のひとつです。

また、これは私の場合ですが、3カ月に1回、大学教授でもある精神科の先生による「事例検討会」の研修に参加しています。ケアマネジャーではない視点からのアドバイスをうける事により、認知症ケアの理解を深めることができます。研修では、患者さんの言動に対する自分が行ったケアを題材にしながら、「本当に患者さんの気持ちを理解できていたのだろうか」と考えていきます。時々、「ズレた認識をしている」と先生から指摘を受けることがありますが、それは、患者さんの言動の"真意"をきちんと理解できていなかったということなのです。

以前は「患者のやり方に合わせる」などのマニュアル通りに「合わせる」ケアをしていたため、患者さんの行動の意味が理解できませんでした。患者さんが何回もトイレに行くたび、ただついて行っていたのですが、「なんで何回も行くんだろう」と疑問ばかりでした。しかし、「何回もトイレに行くのは、さっき行ったことを忘れているから。だからもう一回トイレに行く必要がある」といったように、行動の"意味"を考えることで、患者さんの言動の"真意"を読み取ることができるようになりました。どんな言葉をかければよいのか、どんな対応をすればいいのかがわかるようになったのです。「さっきトイレに行ったのにまた行くの?」ではなく、「(さっき行ったのは患者さんにとってはなかったことだから)じゃあ、トイレに行きましょうか」と声をかけられるようになりました。

医学的な見解を述べてくれる第三者の意見を取り入れることで、これまで考えることができなかった角度から認知症を捉えながら、理解を深めることができます。前述したような、認知症の受け入れに抵抗を示すご家族に対しても、しっかりとした、説得力のある説明ができるようになりました。

認知症患者を抱えるご家族のためにケアマネジャーにできることとは、ご家族の抱えている葛藤や、認知症や介護への不安な気持ちを傾聴し、客観的な視点でのアドバイスをしながら、さまざまな選択肢を与え続けることです。「こういう症状だから受診した方がいい」、「介護サービスを受けることで負担が軽減されます」と、時間がかかってでも説得していくことが必要でしょう。話し合いを根気強く続けることが、患者さんやご家族のためになると私は信じています。

官民一体となった認知症への取り組み

現在、厚生労働省が主体となった「ご家族へのケア」にもつながる取り組みが、各地域で盛んに行われています。2005年から始まった『「認知症を知り地域をつくる10カ年」の構想』のひとつに、「認知症サポーター100万人キャラバン」という活動があります。2014年には「認知症を理解し、支援する人(サポーター)が地域に数多く存在し、すべての町が認知症になっても安心して暮らせる地域になっている」ことを目標に、パンフレットの配布や勉強会などを開いています。現在は、サポーター数が170万人を超えているそうです。地域ぐるみで認知症への理解を深め、協力し合うことは、結果的にご家族の負担を軽減することにつながります。「認知症サポーター100万人キャラバン」のような、国が行う取り組みへ積極的に参加することも、ケアマネジャーの大切な務めのひとつです。

そして、日々の介護の現場では、患者さんへのケアはもちろん、ご家族が認知症を正しく理解できるよう努めるべきでしょう。ご家族が「今どういう状況で」、「何を必要としているか」を常に見極めながら、家族へのケアについて考えていきたいものです。患者さんの言動の"意味"について、一つひとつ丁寧に説明していくことで、ご家族も介護がしやすくなり、ひいては、負担の軽減につながっていくことでしょう。

岩崎 美穂子 氏
【略歴】

1976年    千葉県生まれ
1998年    江戸川大学豊四季専門学校介護福祉科卒業
      特別養護老人ホーム八千代城 デイサービスセンター勤務
2006年    介護支援専門員取得
八千代市在宅介護支援センター八千代城 異動
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