| 今月のコラム第37回 2006/5 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 医学・医療の巨大情報インフラ、「UMIN」の現状と課題 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ■医学・医療関係者にとって周知のUMINセンター。いまや、日本の医学研究者・専門家のほとんどがその恩恵を受けているといっても過言ではないでしょう。お堅い内容にも関わらず3000万ページビュー/月を誇る巨大サイトとなっています。今回は、この日本最大の医学情報ネットワークの運営責任者である木内貴弘さんに、UMINの現状についておうかがいしました。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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【汎用機の使いにくいシステムでスタート】 UMIN(大学病院医療情報ネットワーク = University Hospital Medical Information Network) は、文部科学省の予算で運営されている全国42の国立大学病院のネットワーク組織です。東大病院内にセンターが設置されて、全国にサービスを行なっています。大学病院業務(診療・研究・教育)および医学・生物学研究者の研究教育活動の支援を目的としています。このため、医学・医療・生物学系の研究者・専門家および大学病院の教職員・学生を対象としており、一部一般公開の情報を除き、一般の方を対象としたサービスではありません。 1988年当時、国立大学病院の全部にコンピュータが入りました。大型の汎用機でしたが、そこで医事計算などが始まっていたわけです。そして、当時の東大中央医療情報部の開原成允教授が、その次のステップとして、コンピュータを相互接続し、ソフトの共同開発やデータベースの共有などを行なおうと発想され、1988年にUMINの事務局を立ち上げられました。ネットワークのセンターを作って、データベース、情報システム、データ収集、電子メールなどをやろうとしたのです。これがUMIN設立の発端となっています。 1989年から運用が始まったのですが、最初の4年間は日本独自のプロトコルであるN1プロトコルによる、非常に使いにくいシステムでした。端末機自体がそんなに多くなくて高価だったということもあって、正直言ってあまり使われなかったというのが実情だと思います。 【ASPと同様の機能を持つUMIN】 ところが94年からインターネットベースのシステムに替わって以降、非常に利用者が増えました。しかしそれも多くは電子メールを使いたいというニーズで、当時はUMIN=電子メールのイメージがありました。 私は96年にここに来まして、WEBベースのシステムに変えてインターネットを介したサービスを開始し、国立大学病院以外の医学・医療関係者も利用できるようになりました。現在では、すべての医学・医療関係者が利用できる研究教育の情報インフラストラクチャーに発展しています。 UMINの情報インフラはいろいろな立場の人がいろいろな目的で利用することができます。学会などの学術団体は、会員制ホームページに、必要な情報を掲載したり、UMIN提供のアプリケーションを使うこともできますし、また自前でプログラムを開発してUMINサーバー上で稼動させることもできます。その他、最近では臨床研修の評価システムなど、さまざまなシステムを動かしており、一つひとつ説明したらきりがないくらいになっています。 基本的には役務は提供しません。サーバーやソフトは提供しますが、それを使ってデータ管理などの事務局機能などはやらないということです。IT業界の用語で言えば、ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)と同じだと言うことができます。研究者や医師個人は、研究教育目的であれば無料で利用できます。 現在、会員は25万人くらいいます。学会単位で一括登録したり、研修の評価の場合は大学単位で登録したりするのでどんどん増えています。また、1ヵ月に3000万ページビューというアクセス数を記録しています。エンターテイメント関係のサイトでなく、非常に硬い内容しか載っていないのに、これだけアクセスがあるというのは驚くべきことだと思います。 数多くの便利なサービスが利用登録者の増加につながり、増加した利用登録者によって、カテーテルの事故を防ぐために、事故の画像データベースを作ろうとか、VPN、仮想的なネットワークをつくろうなど新しいサービスの運用が提案され、そのサービスがまた新たな利用者を増やすという良循環がおきています。これだけ大きく多機能な公的ネットワーク組織は、世界的にも例がなくユニークな存在になっています。 【事前登録で期待される臨床研究の質の向上】 UMINは、先ほども言いましたように、利用登録したいろんな団体からさまざまな提案があります。最近の事例では、臨床試験登録を挙げることができます。 これは、たとえば研究者が臨床研究をして、結果が出てしまってから当初予定していたのとは違う仕方で発表したり、まったく違う研究であるかのように発表したりして不正をする、思うような結果が出ないと発表しないなどということがあります。論文だけ読んでいると、その治療法が有効という結果ばかりなのですが、実際は有効が立証できなかった論文は闇に葬られている、そんなことがあります。 ですから結果が出る前に臨床試験を登録しようという話があって、一昨年の9月だったと思いますが、有名な雑誌の編集者の集まりでそういうことが宣言され、事前登録しないと論文を受け付けないということになりました。しかし、日本ではどこも臨床試験の事前登録の受け皿がなかったので、UMINが引き受けることになったのです。今後は、看護系の臨床研究でも同様な動きが出てくると予想しています。 このことは、臨床研究の質が上がり不正がなくなることによって、一般の国民の方々にとっても、間接的に貢献できる部分は大きいと思います。また、現在行なわれている臨床試験などを一覧表で見ることができますので、たとえばその病気で自分がいま悩んでいる、どうも治療が思わしくない、良い治療法がないというようなことがあれば、自分の意思で参加することも考えられます。この情報は一般公開していますので、誰でも知ることができます。 【研究のコストダウンに役立つ情報センターの役割】 UMINはもともとオープンにやっていこうという発想がありましたので、大学病院以外にも、広く開放しています。臨床研究にしても大学だけでやることはなく、通常はいろいろな病院と一緒になってやりますし研究その他の活動もしかりです。大学は多くの場合その中心にはなっているけれども、大学だけで完結できるものはほとんどありません。利用者の4割くらいは大学ですが、特に大学だけに制限しようとは思っていません。 情報センターというのは医学なり医療なりのレベル向上に役立つ面もありますが、研究をやる上でコストが下がるという面もあります。オンラインで研究をして簡単に検索ができる、情報が簡単に集められる、研究が速く進み効率化に役立つということですね。 特に重要なのが、臨床研究ですと無作為化比較臨床する際の登録割付です。登録割付というのは、患者さんが入ってきたらさまざまな条件をチェックした上で、この患者が本当にこの臨床試験に組み入れていいのかどうかチェックした上で、この人は治療、この人は無治療といったようにランダムに割り付けることを言います。そして結果を追跡していくわけです。 昔はこの割付を人間が電話で受け付け、チェックリストをチェックして割り付けていたのですが、UMINは全部オンラインでやりますから、夜中でもできるわけです。いまは不正が起きないように中央登録が一般的になり、自分たちで勝手に割り付けないでセンターに申請して割り付けてもらうようになっています。 このことは直接的に臨床研究のレベルが上がって、診療の質を高めるのに役立つと思いますね。また、今まで臨床研究というと、とてもお金がかかって手間もかかるので、簡単にできるという感じではありませんでした。しかし現在は、たとえば大学病院の1つの診療科などであれば3本も4本も同時に動かしたりしているところもあります。 こういうシステムも、がん関係などの大きな研究グループで資金があるところは自前で作るところが多いのですが、資金がないところはUMINが受け皿になればと思っています。 【民間へのサービス提供の可能性を含む今後の展開】 国立大学の独立行政法人化に伴って、収益のことも考えなくてはという雰囲気が出てきました。予算は黙っていればどんどん減っていきますので、これを補う方法を考えていかなくてはと思っています。今のところは企業向けに有料サービスを行い、一般の人、研究者からはお金を取らないようにという方向で考えていきたいと思っています。 25万人分のIDがありますので、それを使って専門家向けにいろんなサービスをしたり、アンケートをしたり、調査をしたりという企業のニーズは当然あると思います。 現在はあくまでも研究者のためのものであり、一般の人には分かりにくい内容のものばかりと思います。でもこれからは、その内容を一般向けに少し解説するものがあってもいいのかもしれませんね。 |
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| プロフィール 木内 貴弘 氏
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