| 今月のコラム第4回 2003/8 | ||||||||||
| ITで実現可能になった患者中心の医療 | ||||||||||
| ■患者中心の医療という立場から、従来の電子カルテや病診連携の考え方からさらに進んだ新しい病院情報システムと包括的地域ケアを提唱、自ら設計されている秋山昌範さん。医療者に透明性と説明責任、患者に自己責任が求められており、ITはそのために有効というのが持論です。今回は、患者中心の医療とは何かを中心にうかがいました。 |
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| 【患者本位の視点から見た医師と看護師の専門性】 基本的に医学と看護は違います。また、医師法の中で看護師は医師の指示命令の下に動くとなっていて、制度上、医師と看護師が対等ということはありません。だからと言って、このことは看護職の専門性を否定するわけではなく、看護師さんに大事なことは医学ではなく看護だということをぜひわかってほしいと私は思っています。自分が患者だったり、自分の家族が患者だったりしたら、看護師に医療のデシジョン、決定や方針を決めてほしいでしょうか。 なぜこんなことを言うかといいますと、私の経験で、次のようなことはなるべく避けたいなということがあるのです。たとえばあるお薬を出したとします。患者様は、「この薬ちゃんと飲まないとまずいですよね」とか、「この薬はなにか副作用が出るのでしょうか」と主治医に聞きたいと思っている。それを入院中、たまたま看護師さんに聞いたとしましょう。その時に看護師さんが、あまり考えずに「これ副作用が多いんですよね」と一言言ってしまう。確かにそれはある一面で事実かもしれません。自分が接した患者様の中に何人かそういう人がいたかもしれない。しかし、その看護師さんはその薬を使った一万人の患者さんを診たことはないわけです。また自分としてはone of themのつもりで言っても、微妙なニュアンスが伝わりにくくて、言われた方の患者様にとってはそれが100%になって、この薬危ないから飲むのをやめようとなってしまいます。このなにげない一言は不用意に言ってはいけないのです。 看護職から見た患者様ではなくて、本当に自分が患者になったり、自分の家族が患者になったりした時の視点から考えていただきたい。これは簡単なようで難しいんです。 確かに従来はあまりにも医師が独善的過ぎた部分があると思います。患者様の家庭環境の問題や性格的な問題など、患者様を自立に持っていくために、看護職からのアドバイスを聞きながら治療方針を決定していくことも、チーム医療にものすごく重要です。ただ、医学的な方針とか医学的な考え方に関しては、医師の専門性のほうがはるかに高いわけですから、もっと尊重してチーム医療を考えるべきではないでしょうか。一般的に言われていることと逆行するかもしれませんが、私は実はそこが患者本位の出発点ではないかと思っています。 【「自分の一番大切な人が患者だったら」をゴールにする】 新しい病院情報システムはマルチベンダーで作っていますが、会社間の利害の対立や病院との対立点がたくさん出てきます。その場合、納得できるのは真実(理想)しかなくて、私は必ず皆さんにこういうことを聞きます。「自分の一番大切な人が患者だったらどちらを選びますか」と。それがゴールなのです。その観点から看護師さんや薬剤師さんにも厳しいことをお願いしましたし、もちろん医師にもある程度の意識改革を要求ました。 私が医療をサポートするシステムに望んでいることの1つは、患者様に最も近い視点からシステムを作るということです。実は、なぜナースコールを電子カルテにつなごうとしたかとよく聞かれます。いろんなメリットがありますが、原点は、ナースコールという、患者さんに最も近いデバイスをもっと活かしたシステムを作るべきだということです。患者様が意思表示できるデバイスはナースコールしかありません。ですから離れていてもちゃんと自分の気持ちを伝えられる手段としてのナースコールを、もう一回見直して、それが電子カルテに直結して活かされていなければ患者本位のシステムとはいえないのではないでしょうか。 もう一つは、看護職が本来看護職としてやってほしいことをサポートするシステムを作りたいということです。看護支援ということを考えた場合に、医師と独立したシステムではいけないと考えています。看護師さんがやっていることは看護職の特性を活かしたケア、特性を活かした指導、特性を活かした教育で、それはすごく大事だと思います。しかし、「先生もそれは知っているんですね」ということを患者様は期待しているわけです。当然、医師の情報を看護師が共有することは非常に重要ですが、看護師の情報を医師が共有することも同じくらい重要なはずだと思っています。 【病院や診療所は患者様の健康に関する情報を預かる機関】 「ゆーねっと」※というか、連携システムの大きなポイントはいくつかあります。まず一つはシームレスな医療ということです。シームレスな医療、連続性のある医療を医療機関が変わっても受けられる。それは非常に重要なファクターではありますが、実は「患者様の情報を患者様自身で管理する」という考え方が「ゆーねっと」にはこめられていて、そちらの方が私個人としては重要だと思っています。 今までは病院で行われた検査の情報は、病院の持ち物であるという考え方でした。もちろん所有権としては病院にあってもかまわないと思います。ただし、それを使用する権利は恐らく患者様にあるはずです。電子化することの大きな意味は実は所有権と使用権の分離にあると私は考えていて、私は電子貸金庫と呼んでいるのですが、持っている人に使用権があるわけではないという考え方です。病院なり診療所というのは、患者様の健康に関する情報を預かっておく機関であって、それを活用する時には患者様をベースに活用するのが患者本位の医療ではないかと思っています。 個人主義の社会が進んできて自己の確立ということが求められ、今後は健康に関する情報も自分自身でマネジメントする時代になってきているのです。たとえば、生活習慣病というのは病院に丸投げしただけでは予防できません。まさに予防医学というのは主役は患者様です。インフォメーションとしての情報は患者様から与えられますが、それをどういうふうにマネジメントするか、どういうふうに扱っていくかは患者様自身が考えなくてはいけない時代になったわけです。それが生活習慣病の本体だと私は思います。情報自体は今までどおり病院の中にあって、それを自由にマネジメントできる権利や機会が患者様に与えられる、「ゆーネット」はそういうことができるように設計したのです。 【現状のままでのカルテ開示はある意味で危険】 よく患者本位と言って、カルテを一方的に見せろと言われます。また、そういうことが今マスコミに取上げられたりブームになっていたりしますが、私は、それはとても危ないと警鐘を鳴らしたいと思っています。情報開示するということは、開示の意味まで含めてオープンにしなければ意味がない。ただ単にデータを見せただけでカルテ開示というのは、むしろ危険だと思います。 たとえば、腫瘍マーカーというものがあります。PSAという前立腺の特異抗原の値が4ぐらいまでは一応正常です。普通の人は、4以下が正常だと言われて、自分の検査値が10だったとしたら絶対がんだと思うでしょう。20だったら、医師でもがんだと思うかもしれない。でも20でもがんではない人が多いわけです。なぜかというと、前立腺肥大症でも20になるからです。それは泌尿器科の専門医でないとわかりません。そこまでオープンにして初めてデータ開示する意味があるのです。ただ単に自分の前立腺検診の結果がオンラインで見えて、検診結果が8だったとしたら、その人は何日か「がん」だと思い悩んだ末に病院に行くと思います。 そういうケースのように、専門性が非常に求められる中で情報開示を考えると、ある種の特殊な情報は専門医の解説抜きに一人歩きしてはいけないと思います。医療情報の開示というときには、そういうリスクが常につきまとうということを考えてしないといけないわけです。私が病診連携システムでカルテ開示しようとしたのは、患者様にいきなり見せるのではなくて、連携している専門医に解説してもらう、自分のアドバイザーたるかかりつけ医に解説してもらうという考え方の方が正しいのではないかと思ったからです。まだ、そういうポリシーは浸透していませんが、設計した意図はそこにあります。 【抜け落ちている自己責任の観点】 はっきり言って患者様にまったく自己責任がない病気は、感染症やけがくらいのもので、多くは何らかの形でその人のライフスタイルに依存しています。がんというのは、肺がんに限らず、喫煙歴と関係があるのはご存知と思います。ちなみに因果関係が一番最初に実験的に証明されたのは膀胱がんです。ニコチン、タールは全部おしっこから出て行きます。 つまり、タバコを吸う人は、ニコチンやタールが膀胱壁にずうっと接していますので、すぐにがんになってしまうのです。タバコを吸わない人は、膀胱がんにはほとんどなりません。それぐらい因果関係があるわけです。もちろん他にもあって、タバコを吸っている人は「自分は脳梗塞になります」と宣言しているようなものです。そういうことをいくら言われても、「急にやめられないですよ」などと言って、医療費を無駄使いしているわけです。もちろん、タバコを吸うというその人の権利もあります。しかし、その権利と同時に人様に迷惑をかけてはいけないという義務も喫煙の中に入っているはずです。迷惑をかけないということは医療費を無駄使いしないということも入っているはずなのです。 生活習慣病の話に戻りますと、もちろん遺伝的な疾患である場合があるので、その場合は本人のせいではないと言われるかもしれません。しかし遺伝学的に証明できているということは、予防する手段だってある程度わかっているわけです。病気になってから病院に行くからわからないのです。 病気は生活改善で予防ができるのです。糖尿病やがん、遺伝性の疾患、動脈硬化などを含めて、ほとんどは病院に行くまでが勝負です。ですから私の言う「1生涯1患者1カルテ」というのは、学校検診から職場検診などの健康診断情報も含めて、全部の情報を自分でマネジメントできるようにすることなのです。そこまでしてカルテ開示しないと、患者様ご自身が自分でコントロールできるという観点が抜け落ちるのではないでしょうか。 今、カルテ開示とか「1生涯1患者1カルテ」というのはどちらかというと医療機関の不信から起こっています。ですから、非常にネガティブな使い方です。そうではなくて、「1生涯1患者1カルテ」というのは、自分をどうしたら病気にならないようにするかという、ポジティブな使い方をしていただくためにあるのです。そういう観点から議論されていないのが残念です。 ※ 「ゆーねっと」は、新宿区医師会、国立国際医療センターなどの中核病院、訪問看護ステーションにネットワーク型電子カルテシステムを設置し、それぞれの施設で発生した患者の情報を個々の病診連携サーバで管理する包括的地域ケアシステムの愛称。1人の患者に対して各施設で実施した診療や診断の内容は、電子カルテの同一画面で参照することができる。また、患者のカルテを参照する医療スタッフを電子認証し、許可された医師や看護師しか患者情報を参照できないようにしている。患者情報へのアクセスは患者が受診した病院、診療科、医療スタッフのみが閲覧可能で、受診したことがない病院や診療科からは閲覧できない。また、診療所と在宅患者をTV電話で接続しているので、在宅患者の状態を観察し電子カルテに記録することもできる。さらに、学校の保健室と診療所をTV電話で接続し、校内で発生した患者の診断を診療所が支援することも可能にした。愛称は、医療従事者のためではなく住民(YOU)のためのネットワークという願いを込めて、「ゆーねっと:YOU-net」と名づけられている。 (日本医事新報社発行、秋山昌範著『ITで可能になる患者中心の医療』を参照) |
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| プロフィール 秋山 昌範 氏 昭和58年3月、徳島大学医学部医学科卒業。同年4月、同大学大学病院泌尿器科入局。昭和63年4月、慶應義塾大学医学部病理学教室(腎病理、間質性腎炎に関する研究)。平成2年4月、国立病院四国がんセンター。平成9年4月より現職。腎臓内科外来を担当する傍ら、日本医療情報学会理事、日本透析医学会・学術委員会コンピュータ化検討小委員会委員、日本超音波医学会・機器及び安全に関する委員会委員など多数の学会役職や、厚生労働省・文部科学省・経済産業省・総務省・MEDIES等で委員会委員としてご活躍中である。 著書:『ITで可能になる患者中心の医療』(日本医事新報社)、(以下共著)『新臨床内科学』、『医療白書』、『新たな医療連携の実践』、『変革時代の医療と病院経営』、『医療IT化と医薬品コード』、『電子カルテが医療を変える』など多数。 |
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